⑤茨木酒造

 江戸時代、東の「灘」に対して「西灘」 と称されるほどの酒どころだった明石で、1848(嘉永元)年に創業した同社。9代目の茨木幹人さんが中心となり、今も江戸末期から現存する木造の蔵で酒造りを続けています。


 代表銘柄「来楽」は、幹人さんの祖父に当たる7代目が戦後、「新たな銘柄で再出発を」と命名。丹波杜氏ら十数人の職人によって復興の時代と経済成長期の大量消費を支えてきました。
 

 しかし、大学の醸造学科を卒業した幹人さんが22歳で戻った頃には、日本酒の消費低迷とともに売り上げも落ち込んでいました。そこで1歳の時、自らが杜氏となり、純米酒や吟醸酒など品質を重視した方針へと転換。現在では精米歩合や酒米の品種に幅をもたせ、さまざまな種類を手仕込みで生産しています。


 変革は原料にも。かつては九州産を使っていた酒米を県内産に切り替えたのは、蔵の隣で育てた米で醸した酒の方がずっとバランスの取れた味わいに仕上がった経験からでした。「同じ水を吸っているからかなと考え、蔵の地下水と同じ水系の近くで作られたものを主に仕入れるようにしています」

 
 杜氏に就任して2年目の2015(平成27)年、全国新酒鑑評会で初めて金賞を獲得し「やっと一人前になれた」と喜ぶ幹人さんに翌年、コープ自然派から飲んでもおいしい料理酒の製造依頼が舞い込みます。通常の醸造工程にもうひと手間、自家製の無添加甘酒を加えて仕上げるこの商品は、醸造家としての視野を広げるきっかけになりました。

 
 「地酒専門店に認められる酒蔵になること、地元の皆さんに愛される酒を造ることを目標に励んできた結果、酒蔵の持つ発酵技術でいろいろなことができるんだと気付かされました。皆さんに喜んでもらえるのが一番です」。新たに調味料の開発に取り組んでいるほか、本格的な有機農業の勉強も開始。「やりたいことがたくさん」と笑う幹人さんの、今後の展開に注目です。