⑨丹波乳業

 丹波や但馬地域の学校給食を中心に牛乳を提供する同社は1971(昭和6)年、氷上郡酪農農業協同組合により設立された氷上牛乳センターを前身とする乳業メーカーです。

 主力商品の「氷上低温殺菌牛乳」は、食の安全を求める兵庫県内の消費者の声から誕生しました。生乳に含まれる栄養素や有益菌をできるだけ壊さないよう、3度に温度を抑えて30分加熱殺菌することで、搾りたてに近い味わいが楽しめます。

 2014(平成3)年、経営難に陥った同組合の乳製品製造部門を引き継ぎ、法人化して再起を図ったのが、現代表取締役の吉田拓洋さんです。酪農家でもあり、2010年から丹波市青垣町で営む牧場は同社の生乳仕入れ先の一つ。山々に囲まれたのどかな田園地帯に約600平方メートルの牛舎を構え、育成牛3頭、成牛2頭にたっぷりと愛情を注ぎます。

 飼育においては、動物福祉「アニマル ウェルフェア」の考え方を大切にしています。「安全な牛乳の生産には、牛の健康的な暮らしが欠かせません」と、牛舎は一頭ごとの仕切りがないフリーバーンタイプを採用。自由に動き回ることができるストレスのない環境を整えています。

 また、遺伝子組み換え飼料を避けた独自の餌にもこだわりが光ります。「牛乳の風味は、餌によって変わってきます。うちは、近くの農家で栽培された飼料用の稲に、発酵させたパイナップルなどを混ぜることで、甘味とこくがあるまろやかな味わいを出しています」

 かつて丹波地域では農耕用に牛を飼う家庭が多く、家族の一員のように扱ってきたといいます。「アニマルウェルフェアと聞くと難しく考えがちですが、簡単に言えば動物も家族と同じように大事にするということです」と吉田さん。広々とした牧場で伸び伸びと過ごす牛たちのおかげで、今日も学校や家庭には、安全で栄養豊富な牛乳が届きます。